みなさんこんにちは。

今日は母語習得(first language acquisition)と第二言語習得(second language acquisition)を比較してみましょう!

「両方言語の習得やねんから一緒ちゃうん?」って考えている人もいるかもしれませんが、以外と違いも多いのでこの機会に、どのような類似点と相違があるのかを知っておきましょう!

しかし、その前に上でも少し触れましたが、まずは前提として、母語習得も第二言語習得も言語取得であることをしっかりと押さえておかなければなりません。

何が言いたいのかというと、どちらの場合も、言語の習得に関する根本的な考え方、生得性や領域固有性に関する議論が存在します。(詳しくは言語獲得理論で)

生得性や領域固有性に関する議論、例えば原理とパラメーターのアプローチprinciples and parameters approach)や用法基盤モデルusage-based model)などは本来母語習得に関する理論ですが、もちろん言語の習得に関することなので、第二言語の習得にも当てはまります。

例えば生得性の代表例となる普遍文法に関しては、多くの第二言語習得の理論でも取り入れられています。

ではここから具体的に共通点と違いを見ていきましょう。

類似点

・似たような理論

・インプットの重要性

・臨界期仮説

今回はこの3つを中心に見ていきたいと思います。

まずは一つ目の似たような理論から。

これはKraschenのモニターモデルを例にとるとわかりやすいと思います。(モニターモデルに関しての詳しい解説はこちら

Kraschenのモニターモデルは第二言語習得に関する理論で、

・習得・学習仮説(the Acquisition-learning hypothesis)

・モニター仮説 (the Monitor hypothesis)

・自然習得仮説 (the natural order hypothesis)

・インプット仮説 (the Input hypothesis)

・情意フィルター仮説 (the Affective filter hypothesis)

という5つの仮説から成り立っています。(わからないものがある人はぜひモニターモデルの記事を見てみてください)

この中で特に自然習得仮説が母語習得の理論と似ていると言えます。

Kraschenは自然習得仮説の中で、第二言語は教えられる順番にかかわらず一定の順序で習得されていくと述べています。

例えば、〜ingや複数形のsなどは早い段階で習得されるのに対し、三単元のsや、所有格のsなどの習得は最後の段階になるまで習得されないと言われています。(最近の研究では、習得順序に関しても母語の影響を受けることが明らかにされてきています。例えば日本人は比較的早い段階で所有格のsなどは習得することができます。詳しくは母語の転移

そして、母語の習得に関しても、少し順序は変わりますが、同じような習得順序がみられます。

少し見にくいですがこのような順序になると一般的に言われています。

IMG_0061

母語の習得順序

IMG_0062

第二言語の習得順序

では次に2つ目のインプットの重要性を見ていきます。

まず、インプットとは習得しようとする言語に関わる全てのことを指します。

例えば英語を学習しようとする場合、本を読んだり、英語を聞いたり、また母語習得の場合には、周りの人からの話かけなど、全てのことを指します。

第二言語取得に関して言えば、先ほどのKraschenの仮説の一つでもあるインプット仮説に代表されますが、インプットの重要性に疑問の余地はありません。

アウトプット仮説を提唱しているSwainも、インプットの必要性を認めていますし、今までインプットは必要ないという主張は見たことがありません。

実際にモノリンガルの人(1ヶ国語だけ話せる人)を例にとればわかりやすいと思います。

モノリンガルの人が違う言語を習得しようとした時に、その言語に触れずに習得することは不可能ですよね。

英語にかかわらずに英語を習得する・・・

不可能ですね 笑

英語を習得するには英語に触れなければいけません。

したがってインプットなしには第二言語は習得できません。

母語も同様にインプットなしには習得できません。

例えば、有名な野生児のビクトールや、親に虐待され隔離され続けたジニーなどが例に挙げられると思います。

野生児のビクトールは、フランスの森林の中で、推定年齢12歳の時に保護されました。

もちろん言葉のインプットを受けていないため話すことはできませんでした。

一方のジニーも、生まれてから隔離され、親からも無視され続けていたため言葉のインプットを受けていませんでした。

その結果、彼女ももちろん言葉を話すことができませんでした。

こお二人は主に臨界期仮説の例として挙げられますが、インプットの重要性を示すのにも十分な例だと思います。

っというように、当然といえば当然ですが、インプットなしには母語も第二言語も習得することはできません。

では最後の臨界期仮説について見ていきましょう。

臨界期仮説は一番初め、Linnebergによって母語習得に関して提唱されました。(詳しくはこちら

それは、人間には言語習得に適した年齢があり(臨界期)、その年齢を超えると言語を完全に習得することができなくなるという説です。

彼の実験では、失語症の人の回復具合を調査していき、臨界期が大体12歳ぐらいまでという結論が出されました。

つまり、12歳以前に失語症を患った人は、その後完全に言語能力を回復できる傾向にあるが、それ以降にかかった人は完全には回復しない傾向にあるというものでした。

第二言語の方も、臨界期はないという説や、20歳ごろまでが臨界期という説もありますが、今のところ有力なのは母語習得と同じ、12歳ごろまでに第二言語環境に移り住み、習得を始めれば母語話者と同等のレベルになれるというものです。

逆に言えばそれ以降に移り住んだとしても、発音や文法面に関してもネイティブのレベルに達することはできないと言われてます。

上記のように、母語習得も第二言語習得も共に言語習得であるため、類似点もありますが、母語を習得する赤ちゃんと第二言語学習者との違いにより、様々な相違点も出てきます、

まず、第二言語学習者の特徴を挙げておきます。

・一つの言語をすでに習得した状態である

・認知能力がある

・第二言語を「学習」している

では、これらの特徴を踏まえて母語習得と第二言語習得の違いを見ていきましょう!

違い

・母語の転移

・認知能力の利用

・最終到達度

一つ目の母語の転移から。

第二言語学習者の特徴に、「一つの言語をすでに習得した状態である」というものを挙げました。

この特徴から考えられることは、第二言語学習者はすでに習得している母語からの影響を受けるということです。

母語習得の際には人間は他の言語は頭の中にない状態から習得が始まるので、他の言語の影響を受けることはありません。

しかし、第二言語の際にはすでに取得されている母語の特徴によって、学習が促進されるようなプラスの影響(正の転移positeve transfer)や、学習の妨げになるマイナスの影響 (負の転移negative transfer)を受けることになります。(詳しくは母語の転移

例えば日本人の場合、冠詞などの習得は負の転移により習得しずらく、所有格のsなどは正の転移により習得されやすいと考えられます。

2つ目は認知能力の利用に関して。

認知能力とは、物事を理解したり判断したりする能力を指します。

赤ちゃんには認知能力は備わっていないため、母語習得の場合、人間は一般認知能力を利用することはできません。

しかし、第二言語を学習し始める時期は一般的に、ある程度の認知能力があるときなので、この認知能力を利用することができます。

例えば第二言語を学習するときには赤ちゃんが母語を学習するときのように空間的概念(「前」「後ろ」など)や時間的概念(「昨日」「1時間前」など)のようなものを再び学習する必要はありません。

また文法学習のように効率的に言語の機能に焦点を当てて学習したり、自分がわからないことを詳細に述べることができるのも認知能力が利用できる第二言語習得の特徴です。

今述べたように認知能力の利用に関しては一般的にはプラスに働くと考えられているんですが、認知能力が備わっているからこそのデメリットもあります。

例えば、自分の間違いを気にしすぎて話せなくなてしまったり、世の中の様々なことを知っているため、会話のトピックに関してもより抽象的なものになる可能性があります。

また、認知能力が影響を及ぼす領域、及ぼさない領域がそれぞれある、という報告もされています。

音声や文法形態素(三単元のsや過去形のedなど)の領域は認知能力の高さにあまり関係せず、文章w論理的に書いたり、分析的な思考能力を必要とする活動などに関しては認知能力の高さが関係すると言われています。

最後は最終到達度です。

母語に関しては、どの人も最終的には完全に習得することができます。(完全な習得とはネイティブレベルという意味です)

しかし、第二言語習得に関しては「学習」が必要なため、様々な要因により最終到達度にばらつきが出ます。

この「学習」という言葉が第二言語習得においてのポイントです。

母語は学習する必要なく習得することができます。

赤ちゃんが机に座って母語を勉強しているところは誰も見たことがないと思います 笑

母語(特にスピーキングに関して)は周りの人からの話掛けを中心とした大量のインプットにより、学習することなしに習得していくんですね。(もちろん文字などに関しては学習する必要があります。)

一方で、第二言語は学習することなしには習得できません。

なので努力なしに習得できるというものではなく、習得したい場合には自ら学習する必要が出てきます。

学習することが関わってくるため、他の勉強と同じように最終到達度にも違いが出てきます。

その最終到達度に影響を与える要因として今回は、動機づけ、環境、年齢について取り上げたいと思います。

ではこれらの3つの要素を詳しく見ていきましょう。

まずは動機づけから。

動機づけの現在の主流な考え方は、DornyeiとNakataによる、内発的動機づけintrinsic motivation)と外発的動機付けextrinsic motivation)という概念を利用した自己決定論(self-determination)です。

この自己決定論とは、人から強制されて何かをするより、自分の意思で行う方が強い動機づけを生み出すことができるという理論です。

そして、内発的動機付けとは、外国語学習そのものに楽しさを見出し、それを理由に学習しようとする気持ちのことです。

それに対して外発的動機づけとは、金銭や社会名誉などの外から受ける利益のために学習しようとする気持ちのことです。

この理論によると、内発的動機付けの方が学習をより持続させることができる、言い換えると、第二言語習得に役立つ動機づけということになります。

この動機づけの種類や大きさによって、最終到達度が変わってきます。

二つ目は学習環境です。

学習環境は大きく分けて二つ。

自然環境natural settings)と教室環境instructional settings)です。(自然環境は第二言語環境、教室環境は外国語環境とも呼ばれます)

自然環境とは、目標言語が自然にインプットとして取り入れられる環境、言い換えれば日常的に目標言語を使う機会がある環境のことを指します。

例えば海外留学などがこの自然環境にあたります。

一方で、教室環境とは、教室内だけで目標言語を使う機会があり、教室外では使用することがない環境のことを指します。

日本の英語教育などはまさに、教室環境の学習と言えます。

自然環境での学習は、母語習得の環境と近い状態になりますが、その場合でさへもやはり母語習得とは異なります。

例えば留学した時に、レストランに入って食べ物を注文しようとしたが、なんと言えばいいのかわからない。

おそらく調べたり尋ねたりして学習していくと思います。

赤ちゃんの場合は、一番初めの段階で「注文」という概念すら分からない状態ですが、何度も親がおこなっている行動と言葉を聞いて自然に「注文」という行動と、注文するためのフレーズを習得していくと考えられます。

一方、教室環境の場合は、学習をしなければその言語に触れる可能性がなくなってしまうため、学習は必要不可欠です。

同じように学習したとしても、やはり自然環境にいるのか、教室環境にいるのかでは最終到達度は全く変わります。(先ほど述べた臨界期のに関して、教室環境での学習は、インプットの量が十分でないため臨界期の話に取り入れるべきではないというのが一般的な見解です)

最後は学習年齢。

母語習得は生まれた瞬間から始まるため、学習の開始年齢を考慮する必要はありません。

しかし、第二言語は学習が必要なため、その学習を始めた時が習得の開始年齢になります。

そしてこの学習開始年齢は臨界期との話とも関わってきますが、学習者の年齢によって学習から得られる効果は変わってくると言われています。

また、年齢に関しても先ほど述べた学習環境が影響を及ぼし、一般的には大量のイッンプッットを得ることができる自然環境の場合、年少者の方が有利で、インプットの量が不十分な教室環境では、認知能力を使うことができる年長者が効率的に学習することができると言われています。(詳しくはこちら

さらに一般的には、「Younger is better, older is faster.」と言われていて、臨界期や、最終的な学習期間を考慮すると小さい時から第二言語習得を開始する方が良い一方、認知能力は年齢とともに上がり、開始時期が遅くなれば認知能力を使った学習ができるため(初めのうちは)早く習得できると言われています。

今例に挙げたのは3つだけですが、このような学習にかかわる様々な要因によって、第二言語習得では母語習得とは異なり最終到達度に差が出てくると言われています。

というようにかなり長くなりましたが、これらが母語習得と第二言語習得の主な類似点と違いになります。

第二言語習得を考える場合には基本的には母語習得との比較が行われるため、これらの基本的な知識はぜひおさえておいてください!

では今回はこれぐらいで。

第二言語習得論一覧へ