今日は幼児〜子供の言語発達について書いていこうと思います。

赤ちゃんがどのように言葉を習得していくのかという一通りのプロセス書いていく予定ですので、興味のある人は読んでみてください。

「音の知覚」、「言語産出」そして「言葉の理解」の3つに分けて書きます。

今回は「音の知覚」についてです。

まず、胎児〜という言葉を用いましたが、驚くことに人間はお母さんのお腹の中にいるとき、特に生まれてくる直前の最後の3ヶ月あたりから音の知覚(母語の音声やリズムの知覚)は始まっていると言われています。

よくお腹の中の赤ちゃんに声を開けるといいよ、ということで、妊婦さんやその旦那さんがお腹の赤ちゃんに声をかけたりしていますが、実際にあれは効果があるということですね。

「じゃあなんでそんなことわかるねん」ってなるんですが、実験によって証明されています。

「どうやって実験するん?」ってことなんですが、それは心拍数と赤ちゃんがお母さんのお腹を蹴る頻度によって調べることができます。

「???」って感じだと思うので詳しい説明を。

胎児はある音声の刺激を受ける(音を聞く)と心拍数やお腹を蹴る頻度が上がるということがわかっています。(機械を用いて計測するんですね)

さらに同じ音声の刺激を与え続けると、だんだん飽きてきてしまうため、心拍数やお腹を蹴る頻度がだんだん下がってきます。

よく「毎日同じことを繰り返す日常に飽きてきた」的な言葉が漫画やドラマでも登場します。

そんな感じ 笑

つまり、その音声を聞くことが当たり前のようになってくるため飽きてくるんですね。

このことを慣化(habituation)と呼びます。

その状況で、次に違う音の刺激を与えます。(例えば今までずっと「こんにちは」という音を聞かせていたのなら、次に「元気ですか」という音を聞かせてみるというような感じ)

すると、赤ちゃんの心拍数やお腹を蹴る頻度がまた増えるんです。

どういうことかというと、もし仮に例のように、「こんにちは」の音が慣化した後に「元気ですか」を聞かせた時に、両方の音が同じだと知覚したなら、心拍数や蹴る頻度は変わらないはずです。

同じことの繰り返しに飽きた日常の状態ですよね。

しかし、「元気ですか」の音が「こんにちは」の音とは別のものと知覚できている場合のみ、その違いに気づくことができ、新しいものだと気付き心拍数と蹴る頻度が増えるんですね。

これを脱慣化(dishabituation)と言います。(慣化と脱慣化の考え方は幼児を対象とする実験でも大切な考え方なので頭に入れておいてください。)

つまり、心拍数と蹴る頻度が増えていることから、胎児は音の違いを知覚できていると言えるんです。

もちろん胎児は言葉の意味は理解できていませんが、音の違いは知覚できるんですね。

さらに面白いことに、胎児はお母さんの声も理解できていると考えられています。

ある研究で生まれてすぐの赤ちゃんは、他の人たちの声よりもお母さんの声に対してより興味を示すことが示されています。

お母さんのお腹の中にいるときは、お母さんの声を羊水を通して聞いているため、生まれてきてから聞く声とは異なります。

しかし、赤ちゃんはお母さんの声に関するなんらかの手がかりをお腹の中にいるときに手に入れて、生まれてから一番重要になるであろうお母さんの声を判断する能力を手に入れていると考えられています。

そして生後たった2日の赤ちゃんが自分の母語に対する関心を示したり、生後4日の赤ちゃんが英語とフランス語を区別できたりすることを示す研究もあります。

英語が母語の赤ちゃんは生後1〜4ヶ月ほどで音の似ている[p]と[b]の音を識別できるようになると言われています。

ここでもまた、「どうやってそんなんわかるねん?」ってなりますよね。

先ほど説明した慣化と脱慣化という考え方を基にした、High-amplitude sucking techniqueというおしゃぶりを吸う頻度を調べて違いを知覚できているのかを判断します。

先ほどは心拍数と蹴る頻度を基に調べましたが、乳児の場合は機械に接続されたおしゃぶりを使って調べることができます。

つまり、[p]の音に慣化させた後に、[b]の音を聞かせると脱慣化が起こったということです。(例えば[pa]という音を聞かせて感化させた後に[ba]という音を聞かせることで調べることができます。逆でも可能)

一方で赤ちゃんは似ている音の知覚をしなくなることもあります。

ある実験で生後6〜12ヶ月までの日本人の赤ちゃんは[l]と[r]の音を聞き分けることができたのに、10ヶ月〜12ヶ月のグループは聞き分けることができなかったということが示されています。

言い換えると、もともと持っていた音を聞き分ける能力の一部を赤ちゃんは失っているということです。

しかし、これは母語習得の観点からすると悲しいことではないんですね。(第二言語を学習する場合には悲しいことですが・・・笑)

自分の母語に必要のない識別は切り捨てたほうが母語習得にとって効率がいいんです。

毎回「ラッパ」という音を聞くたびに、今の「ラ」の音はLなのかRなのか、なんて日本語の場合には判断する必要はありません。

なので無駄な部分は識別しなくなるんです。

つまり、英語を母語とする赤ちゃんは10ヶ月を過ぎても[l]と[r]の識別はできるということになります。

また生後2ヶ月の英語を母語とする赤ちゃんは、自分の母語と日本語を識別できる一方で、オランダ語とは識別できないという実験結果があります。

この説明として持ち出されるのが、生まれてから赤ちゃんは言語のリズムによって異なる言語動詞を知覚しているのではないかという”rhythmic class hypothesis”という仮説です。

言語は大きく分けて3種類のリズムに分類されます。(詳しくは幼児の音の分節化の方法に書いています)

強勢リズム(stress-timed rhythm)

音節リズム(syllable-timed rhythm)

モーラリズム(mora-timed rhythm)

の3つです。

英語は強勢リズムの言語に分類される一方、日本語はモーラリズムの言語に分類されます。

したがって音のリズムが異なるため赤ちゃんはこの二つの言語を識別できるということです。

一方、オランダ語は英語と同じく強勢リズムの言語に分類されます。

したがって同じリズムであるため二つの言語は同じように聞こえてしまい識別できないということです。

というのが「音の知覚」についてです。

次は「言語産出」に行きましょう!

赤ちゃんの言語発達②「言語産出」

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幼児の言語習得に関しては以下の三冊の本を基に書いています。(クリックで詳細表示)